第五回「音楽は「間」。「間」が音楽。」(2/2)
では、「間」を、音楽的な「間」を大いに感じるアルバムを紹介します。
あえてポップス、ロックフィールドの、歌もの作品で選んでみました。なぜならロック好きなあなたに聴いて感じてもらいたいからです。
今回のテーマに合う作品は他にもいろいろあると思いますので、思いつくものがありましたらぜひ教えて欲しいです。
木下ときわ - 海へ来なさい(2009年リリース) 「間」を感じる度★★★★★
ブラジリアンポップス・ユニット「DOIS MAPAS」としてのLIVE活動やアルバムリリース、久保田麻琴さんプロデュースでの作品リリースを経て作られた、木下ときわさん2009年のアルバムです。
(蛇足ですが、DOIS MAPASの『1.9.0』というアルバムはわがSTUDIO LEDAのチーフエンジニア水谷勇紀がレコーディングしています。)
本題です。このアルバムを聴いてぼくは今回のコラムテーマ「音楽は「間」。「間」が音楽。」というフレーズが浮かんできたのです。これだけ最小限の音に厳選して出し、この微妙にゆったりしたテンポでグルーヴしながらアルバム全11曲を貫くなんて相当な技量が必要です。才能に恵まれたミュージシャンにしか成せない技です。そこに、前半のカヴァー曲、後半のオリジナル、ともに文句なしの絶妙のポップセンスが加わります。
木下ときわさんのちょっと中性的な太い声が魅力的で、新美博允さんはギター、作詞・作曲・アレンジと尋常じゃない才能を発揮しています。最後に特筆すべき点をもう1つ。音がすばらしいアルバムです。装飾いっさいなく生々しくて奥行きがあって木の香りがするような音です。
目の覚めるような気持ちのいい作品です。
Cassandra Wilson - Blue Light 'Til Dawn(1993年リリース) 「間」を感じる度★★★★
テーマが決まって、どのアルバムを紹介しようかとイメージしたときに真っ先に思い浮かんだ中の1つがこれです。
上記の木下ときわさんのアルバムよりは少し楽器編成が多くギターやベースやドラム、パーカッションなどアコースティックな楽器がいろいろ聴こえますが、このすき間を感じる音作り。魔術師クレイグ・ストリートさんのプロデュースは冴えまくっています。
カサンドラさんの歌声は太くてキーも低く、たぶん男性にも女性にも聴こえるでしょう。彼女は80年代後半に登場し90年代にブルーノート・レコードからメジャーリリースし一気に注目されたジャズシンガーですが、ジャンルを超えて現代最高の歌手の1人だと僕は思っています。このアルバムではジョニ・ミッチェルやヴァン・モリソンのカヴァーを歌い、次作『New Moon Daughter』ではU2やニール・ヤングのカヴァーをしたり、ロック・フィールドのリスナーにも聴いてほしい歌い手です。
ゆらゆら帝国 - 空洞です(2007年リリース) 「間」を感じる度★★★★
今回のテーマで真っ先に思い浮かんだアーティストのもう1つが、ゆらゆら帝国です。
どのアルバムもすごいですが、タイトルがテーマを彷彿とさせるし、アルバムタイトルチューン「空洞です」がまさにキラーチューンなのでこれを選びました。
彼らのユーモアたっぷりの歌と演奏は、無駄な音などいっさいなくある意味とてもストイックです。かっこよくて滑稽なリフのくり返しの上にナンセンスで意味深な歌が乗り、ねらって俗っぽさを出しつつ意外性のある上もの楽器が入ってきたり、彼らの音楽には常に一見相反する2つの矛盾した要素が入っています。その2つが混ざり混ざらず、すき間を縫いながらグルーヴィに漂っていきます。
浜田真理子 - 夜も昼も(2006年リリース) 「間」を感じる度★★★★★
このアルバムもどうしても紹介したいと思った一枚です。
レコーディング担当は、関わる作品どれもが気になるのZAKさん。この作品でも「本当はこれが自然な音、バランスでしょ?」というさりげない主張を感じます。
浜田真理子さんは、ミュージシャンとしてのあり方、スタンスが気になる存在。それに、もし本当に歌が上手いとは?ピアノが上手いとは?いい表現とは?という問いがあるならば、本当に上手いアーティストとはこの人のことを言うのでは、と僕は思っています。
浜田さんの歌い方はもっともむずかしい歌唱法です。ごまかしがいっさいきかない歌い方、それを絶妙に、あやうくもさらっと、けど地にしっかりと足をつけて歌い、ピアノを奏でています。
そして、じっくりとためにためた「間」表現。我慢強さ。
バックグラウンドにジャズを感じつつ、けれどこの「間」は日本的な「間」にも感じます。日本の伝統芸能(和歌、俳句、能楽、雅楽、茶道とか)を彷彿とさせるのです。
聴き終わったころにはなぜか頭がスッキリとしているのです。
Caetano Veloso - Caetano Veloso(1986年リリース) 「間」を感じる度★★★★★
説明不要、といいたいところですが、カエターノさんについて簡単に解説します。
カエターノ・ヴェローゾさんはブラジルのシンガーソングライターで60年代後半にデビュー。独裁軍事政権への敵意を反映させた歌のせいで一時期国外追放されています。40年以上コンスタントに作品をリリースしつづけ、挑戦や革新性が衰えることがない希有な表現者。よかったらスペインの映画監督ペドロ・アルモドバルさんの『トーク・トゥー・ハー』を観てみてほしいです。カエターノさんの演奏シーンがあり、それがもう鳥肌もの。僕は感動でざわっとなりました。
さて、この作品は1986年リリースのガットギターと歌のみのシンプルなアルバムです。ニューヨーク録音。マイケルジャクソンの「Billie Jean」とビートルズの「Eleanor Rigby」のメドレーが秀逸です。
聴いていると自然とカエターノさんと自分が一対一になっています。カエターノさんの歌と自分の呼吸がシンクロしたとき、カエターノさんが感じる「間」を自分も共有できた気がするのです。それは至福の瞬間です。
Gilberto Gil - 声とギター ジル・ルミノーゾ(2006年リリース) 「間」を感じる度★★★★
もう1人、ブラジルMPBの最重要ミュージシャンを紹介します。
ジルベルト・ジルさんもカエターノさんと同様に軍事政権から危険人物とみなされ一時期ロンドンに亡命しています。ソウルやレゲエ、ブラックミュージックへの傾倒が強いのはアフリカ系ブラジル人だからでしょうか。
40年におよぶキャリアと50枚近くの作品を発表している方です。ぼくはほんの数枚のアルバムしか知りませんが、そんな中、このアルバムは輝きを放っているに違いないと確信します。「声」と「ギター」、そして「間」に、ジルさんの哲学が凝縮されている気がするのです。凄みが際立っているのです。
“ジルが録音した中で、最も美しいアルバムの一つだ”(カエターノ・ヴェローゾ)
Norah Jones - Come Away With Me(2002年リリース) 「間」を感じる度★★★★
最後にかなりメジャーな一枚を紹介。上記のカサンドラさんのアルバムと同じく、空間的音作りの魔術師クレイグ・ストリートさんのプロデュース作品です。
00年代を代表する一枚でしょう。曲も演奏も音もすべてが気持ちよく、奇跡的なバランスで成立しています。個人的にこのアルバムはポップスの一つの完成型ととらえていて、リファレンスにしている作品です。
編集後記
音楽を聴く、と一言でいってもみなそれぞれがその人なりの感性で聴いてますし、聴くタイミングで全然違う音が聴こえてきたりもします。つまり音楽には様々な要素が入ってるということでしょうね。
何度も聴いてきたアルバムも、今回のテーマの「間」を意識しながら聴き返したら新鮮な気持ちで聴くことができました。また、紹介はしませんでしたがテーマに合いそうなアルバムをリサーチし、いくつか手に入れて聴いてみました。
意識的にテーマを設けて、その視点で音楽を選んだり、聴いたりすることは案外自分の幅、許容範囲を広げてくれたりするかもしれませんね。ちょっとおすすめな聴き方です。
というわけで、いかがでしたか?感想、ご意見お待ちしています。
(text by T. SUZUKI illust by まどっち 2010.8.17)
<了>

