ジョージ・マーティンのこどもたち
ライブの再現ではなく、実際にはありえない、レコードでしか聴けない音楽。 それは、アビーロード・スタジオでレコーディングされたビートルズのアルバム「サージェント・ペパーズ・ロンリーハーツ・クラブ・バンド」からはじまりました。 現在、私たちが当たり前に使っている様々なレコーディング手法は、その時に生まれたものの応用で、 この作品がなかったら、聴いたことのない音や新しい音楽は生まれなかったかも知れません。 そう、私たちも私たちの作品もビートルズと同じ様にみんな、 ジョージ・マーティンのこどもたちなのです。
back number
#2 最高のレコーディングテクニックとは? / #1 アナログ・ドラム・サウンド /
第二回「最高のレコーディングテクニックとは?」(1/2)
レコーディング現場における数々の伝説
ずいぶんご無沙汰しておりました。エンジニアの水谷です。みなさん、いかがお過ごしでしたでしょうか?
一年ちょっとぶりの第二回目です。
このコラムは、実際に音を聴きながら、レコーディングの現場で行なわれていることや、打ち合わせでよく質問されるようなことをテーマに書いていこうと思っていますが、にもかかわらず二回目の今回は、ちょっと話を脱線してレコーディング業界で語り継がれている伝説について書こうと思います。
実名では書けないような危ない話
そういう語り継がれるような話はだいたいがここには書けないような危ない話で、
例えば某有名アーティストのレコーディングでエンジニアが間違ってコーラスのトラックを消してしまい、みんなが帰った後にスタジオに鍵をかけて、ミキサーの前でヘッドフォンをして自分が歌って録音したらバレないで世に出てしまったとか、
マスタリングの時に徹夜が続いたエンジニアとプロデューサーがつい居眠りをしてしまって、マスターテープが絡まってちぎれてしまい、スプライシングテープでつぎはぎをし、レコード会社のディレクターが聴いてチェックする時に、それを隠すためにつぎはぎ箇所がヘッドを通るタイミングになると二人が交代で何食わぬ顔をしてテープレコーダーの前に立って見えない様にしたとか、
新人バンドの初めてのレコーディングの時に、遅れて来た超有名エンジニアがとりあえずバランスとるために一度演奏してもらって一言、「もうちょっと練習してから来てください、お疲れさまでした。」と言って帰っちゃったとか、
徹夜が続いたアシスタントエンジニアが何ヶ月ぶりで家に帰れることになった時、電車で寝過ごして終点まで行ってしまい、反対の電車に乗って戻る時もまたまた寝過ごして終点まで行ってしまい、何往復しても結局家にたどり着けずに仕事の時間になってスタジオに戻って来たとか、
スタジオの受付の女の子が朝エレベーターを開けたら、中でアシスタントエンジニアが倒れていた話とか、、、
そんな中にも
中には、少しですが、いい話もあります。
その中ですごく好きな話です。
ほとんどギャング映画の世界
ある日本の有名プロデューサーの録音仕事に外国の超有名アーディストが参加することになった時の話です。
録音当日、日本のスタッフが緊張して待っていると、スタジオの前に大きなリムジンが横付けになり中から怖そうな取り巻きたちと共にその有名アーディストが降りて来てました。
ほとんどギャング映画の世界です。
現場に来るなり彼は座りもせずにいきなりマイクの前に向かったのです。
ヘッドフォンをして「テープをかけろ!」と言い一回歌うと、
「どうだ、文句無いだろう?」
と言ってそのまま帰ろうとしました。
スタッフたちは青くなりました。
何故なら彼はもの凄く酔っぱらっていたのです。
そしてその歌はとてもこのままでは使えない感じのものでした。
でも怖くて誰も「もう一回歌ってくれ」とは言い出せません。
日本人プロデューサーもどうしたらいいか分からなくて黙ったままです。
その時です。
アシスタントエンジニアのとっさの機転
スタジオの奥から一番若いアシスタントエンジニアが、
「すみません!今のはテストだと思って録音していませんでした!すみません!!」
と大きな声で叫んだのです。
それを訳してもらった有名アーディストは
「もう一回だけだぞ」
と言ってさっきよりは良いテイクを録音して帰りました。
もちろん、本当はアシスタントの彼は最初のテイクもちゃんと録音していました。
それは彼がとっさに思いついた嘘だったのです。
<続く>

